
あれは小学生の頃、弟を連れて横浜スタジアムの階段を登りきった時に聴こえた歓声とまばゆいカクテル光線に魅せられた。それからずっと関内駅からスタジアムへの横断歩道の信号が変わるのを待ちきれなかった。
スタジアムに遅れて着いて0対1かと思ったら0対10だったこと。
ロッテに21点取られて罵声をあげたところで記憶を無くし気が付いたらスタバで彼女が不機嫌に本を読んでいたこと。
開幕戦の初球いきなり三浦が由伸にホームランを打たれたこと。
思い出すのは半分くらいが苦い記憶だ。
佐伯と木塚の引退試合、筒香がスカスタのネットに突き刺さる特大ホームランを打った時に時代が変わる予感がした。
サヨナラ勝ちした時、同じく応援していた見知らぬ男が階段を駆け上がってきてがっちり抱き合ったこと。
いつか点が入ると周りの人たちとハイタッチするのが普通になったこと。
それから時が経ち、煙草と競馬とベイスターズが好きだった人はこの世を去り、タンクトップのユニが似合っていた女の子たちもどこかに行ってしまって、代わりにガラガラだったスタジアムは満席になった。
ヤスアキは1点リードじゃ危ういこと。
白崎はランナーがいると打てないこと。
三上が打たれて負けること。
それは全部わかってた。
でも、もし宮崎の送球がそれなかったら。
もし梶谷のバックホームがアンツーカーでバウンドしなかったら。
次の回、武田の落差あるカーブを筒香が狙いすましてバックスクリーンに放り込むこともわかっていた。
あと1試合見せて欲しかった。
奇跡を期待していた。
不器用でかっこ悪くても、選手を信じ声をからして。
来年の野球が楽しみだから生きていたいと思うのは結構本気だ。
何故好きなのか、と言われても好きなものに理由はない。
強いて言えば未完成で、負け続けて、でも頑張っている姿勢に自分を重ねるからだ。
負けてもまだ次がある、と思いながら通勤電車に乗れるからだ。
頑張っていればいつかきっと、と思えるからだ。
野球も生きることも続きがあるから面白い。
長い夏が終わった。
でも、ここからが始まりだ。