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2010/07/03

【休肝日】「薬菜飯店」を読む

一定の年齢以上の方なら少年少女時代に読んだことがあるに違いない小説家・筒井康隆。
「時をかける少女」の大ヒットや「七瀬ふたたび」のエスパー七瀬シリーズが有名ではあるが、この人の真骨頂はむしろ短編にある。

「薬菜飯店」は神戸の裏路地でふと見つけた中華料理店に入った男の話。
この店、その名の通り薬菜がたっぷり入った料理が名物で、目が悪い人のための「賭揚切鮑肝」、鼻中隔湾曲症治癒のための「焦鮮顎魚辛湯」、肝機能を回復させる「冷酔魚海驢掌」などなど100種類のメニューがある。
その皿を食べるごとに男の身体が変調を来たして・・・。

笑いのセオリーは繰り返しにあることは漫才を見ればよくわかるが、この話をはじめ筒井さんの短編の肝は「悪ノリ」にある。突然会社にオニが現れる「死にかた」、凶暴な相撲取りに追いかけられる男の悲劇「走る取的」など名作は多々あるが、おおよそ婦女子には読ませられないエログロ話の数々。食事中も控えたいものばかり。

ハッピーエンド至上主義の俺には受け入れがたい話ばかりだが、そこはそれ、怖いもの見たさで一時期筒井作品ばかりを読んだものである。

一方筒井さんにはウェルメイドでリリカルなファンタジー作品も多々あって、ふすまを開けるとまた座敷、その先のふすまを開けると座敷が続く「遠い座敷」や、車座になって順番に歌を歌う古い村の風習に紛れ込んだ男の話「熊の木本線」など思わず唸る名作ぞろいなのだが、この本にも「ヨッパ谷への降下」という素晴らしい作品が収録されている。

ちなみに肝機能を回復させる「冷酔魚海驢掌」なる料理は、竹島だけに住むニホンアシカの掌。細かく刻んだ肉にシェリー酒のような酒をかけて冷やしたもののそうである。その効果のほどは・・・読んでお楽しみください。

ヨッパ谷への降下―自選ファンタジー傑作集 (新潮文庫)ヨッパ谷への降下―自選ファンタジー傑作集 (新潮文庫)
(2005/12)
筒井 康隆

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