春の嵐が空の汚れを拭い去っていったある日、青い空の下俺が降り立ったのは桜木町。競馬帰りのベテランたちが駅に向かう街並みは空の青さとは裏腹に灰色にくすんでいた。
物心付いたころにはすでにあった駅前のビル「ぴおシティ」の裏手に広がる飲み屋街。その入口にある「叶家」は野毛ビギナーには最適の店だろう。

立派な店構えと「ふぐ」の二文字にのれんをくぐろうとした足が止まった。
ふぐのコースしかなかったら?高級店だったら?
初見の店では誰もが悩むことだろう。だが心配は杞憂。店内は競馬帰りのベテランでほぼ満席。時間は午後4時をまわったところだがこれが野毛時間だ。

ハイボール300円。メニューには「野毛ハイボール600円」と「角300円」があり、野毛ハイボールを頼んだつもりが伝票には300円の記載。謎だが、
謎は謎のままにしておこう。愛想のいいような悪いようなおばさんの顔を見ながら俺は思った。

煮込みはやや大きめのもつとよく味の染み込んだこんにゃくがベース。

いかげそしょうが焼きは甘めのたれにしょうがが効いていて面白い一品。
広い店内には競馬が映っているTVを見ているベテランの方々や、焼酎をボトルで水割りにしているおばさまなど年季の入った方々ばかり。隣を見ると麦のお湯割りを頼んでいた。午後4時に麦のお湯割りは
未体験ゾーン。先達に習って注文してみた。麦の味がふんわりと香ってまだ寒さの残る3月、体にしみこむ味だった。
叶家 (かのうや) (居酒屋 / 桜木町、日ノ出町)
★★★★☆ 3.5