日光駅から東照宮に向かう参道は両脇に老舗の湯葉店や菓子店などが立ち並び、真ん中は車が通る往来になっている。昔は大名行列が通っていた道を今は車が走っている。向かいに老舗の飴色の看板があっても飛ばす車を気にして渡らなくてはならない。文明社会だ。しょうがない。
夏の初めにしては暑すぎる強烈な日差しがにわかに翳り、向こうから黒い雲が近づいてきた。
日本でも定番となった東南アジア特有のスコールがもうすぐ来るだろう。
向かいにそこだけぽっかりと黒く戸口が開いている店があった。
古民家を再生したカフェのようだ。率先して道路を渡ると入口に立てかけられていた黒板には「昼飲みバー」と書かれていた。

戸口を入ると暗い店内に目が慣れない。カウンターだけの店にはジャズが流れていた。
メニューが見当たらないので、カウンターの中の若い男性に声をかける。
ドライバーには酒は飲ませられない。
免許がない俺はもちろん角のハイボール。
免許がないのはこんな時に得するためだ。

ハイボールはちゃんと冷えている。濃さもちょうどいい。
アイス珈琲はしっかり豆を挽いて作ってくれる。
外は土砂降りだ。
閉じ込められた風になったがちょうどいい雨宿りになった。

営業は週末だけらしい。
今日は気が向いたので昼を開けたそうだ。

店の時計は5時45分で止まっていた。
20分ほどで雨は小止みになった。
若い店主に礼を言い店の名前を聞くと
「ヨイノクチ」というらしい。なるほど。5時45分。
涼しくなった中を歩いて駐車場まで歩いた。
スコールのおかげでいい店に出会えた。
日光に来たらまた寄ろう。